【EURO2020王者】ロベルト・マンチーニ率いるイタリア代表戦術分析_守備編
こんにちは。
東京オリンピック・パラリンピックも閉幕し、少し秋らしい気候になってきましたね。皆さま、いかがお過ごしでしょうか。
本日は弊社のセミナーでも分析の題材として取り上げたEURO2020の王者イタリア代表の戦術分析をとんとんさんにご寄稿いただきました!
36試合連続無敗記録を樹立したイタリア代表のチーム戦術に迫ります。
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多くの優勝予想においてフランス代表の名前が上がる中、イングランド代表との決戦を制してEURO2020の覇者となったロベルト・マンチーニ率いるイタリア代表。
最後に敗れたのは2018年9月。そこから30戦以上を無敗で過ごしてきたイタリア代表のカルチョは、代表チームのそれとは到底思えない練度を誇る。タレント力で言えばイングランドやフランス等をはじめ各国代表と比べ特別抜きんでているわけではなかったが、チームとしての機能性に関しては頭1つ抜けていた。
今回はEURO2020を制し、大会を終えても未だ無敗記録を更新しているイタリア代表のチーム戦術にフォーカスする。
■基本布陣
基本布陣は4-3-3だ。攻撃時は左SBのスピナッツォーラと右IHのバレッラが高めにポジションを取り3-2-5気味に変化。守備時は4-1-4-1となる。
GKは今大会のMVPを獲得したドンナルンマ。CBには長年コンビを組むベテランのボヌッチとキエッリーニ。SBには、右に安定した守備を披露したディ・ロレンツォ、左にスピードとパスワークを活かした攻撃参加が売りのスピナッツォーラが配される。
アンカーはチェルシーでCLも制したジョルジーニョ、左IHには守備への切り替えで重要な役割を担ったヴェラッティ、右IHには中盤と前線の橋渡しをするバレッラが入る。
右WGに推進力あるドリブルと強烈なシュートが持ち味のキエーザ。左にチームのエースであり、崩しの核となるインシーニェ。CFには抜け出しだけでなくポストプレーもこなしたインモービレが入る。
■チームのスタイル
イタリアはゆったりとしたビルドアップで敵を押し込み、敵陣でボールを奪われた際に中盤3センターを軸に素早くプレッシングをかけて即時奪還を図るスタイルをとった。敵のプレスが強い時も簡単にロングボールと空中戦に頼らず、ボヌッチのフィードで敵のいないDFと中盤の間に落として打開を図る。守備においては、決して早くはないが的確に選択肢を潰すようプレッシングをかけ、バックパスのタイミングで全体のラインを押し上げてジワジワと敵を追い込んでいく。
■守備戦術
守備の陣形は4-1-4-1となる。中央を遮断し選択肢を削るようにプレッシングをかけ、敵にバックパスを強いてラインをあげていく。サイドか中央かを問わず、楔を打ち込んできるタイミングで中盤の3センターが中心となって絡めとる。
肝となっているのが3センターの距離感と連動だ。敵のシステムとボール回しに応じてポジショニングをこまめに修正し、ボールを絡めとるための網目を細かく保つ。3センターが距離感を保つためには周りを固める選手たちの協力が不可欠だ。右WGのキエーザはサイドの選手を切るようにポジションをとる傾向が強い。これにより中央は開けてしまうが、ボヌッチがアンカー脇の敵に対して積極的に前進して潰しに出ることでカバーしている。対して左WGのインシーニェはハーフスペースを切るようにポジションをとる傾向が強い。これによりサイドが空く形となるが、SBのスピナッツォーラが中盤ラインまで前進してボール奪取を図る。インモービレはパスコース制限の先鋒となり、中盤のスライドが間に合うよう比較的ゆったりとした動きで誘導していく。
プレッシングについて3パターン例を見ていく。1つ目のシーンは4バックの状態でビルドアップを行うスペインに対するプレッシングだ。スペインの左WGにボールが渡る際、ディ・ロレンツォは前を向かせないことが重要となる。なぜなら、イタリアにとって敵のバックパスがプレスのトリガーとなるからだ。SBへのバックパスに対してはキエーザが寄せる。このプレスに対してSB→CBとボールが渡るが、この2度のバックパスに合わせて守備ブロック全体を1列高く押し上げ、人を捕まえる。CHを見ていたインモービレはCBにプレスをかけ、空いたCHをバレッラが捕まえ、中央で空くCFのダニ・オルモはボヌッチがアンカー脇まで捕まえに出る。この時逆サイドでヴェラッティもCHを捕まえに前進し、インシーニェはサイドチェンジをさせないようハーフスペースでCBとSBの両方をケアできる位置をとる。プレスをはめるうえでこのインシーニェの役割は非常に重要な役割となる。サイドチェンジを許さなければ、守備ブロックの密なサイドで絡めとることができるのだ。
0トップの役割を担うダニ・オルモの働きにより、敵陣で奪ってショートカウンターに結びつける回数は多いと言えなかったが、ポジション修正とカバーリングを繰り返し行うことで守備陣形に穴を空けず、最終ラインでは比較的余裕をもって攻撃を封じることができた。
次は、採用するチームの多かった3バックでのビルドアップ(ベルギー戦)に対するプレッシングだ。後方に人数をかける敵に対し、前線3枚がCHを切り3バックへとボールを戻させることで、CHのマークをIHに受け渡す。このシーンではスピナッツォーラが前進してWBをケアするが、同時にインシーニェとインモービレはCHへのパスコースを切り右CBに戻させる。ここからインシーニェがCHを切りながらCBに追撃プレス、インモービレもCHを切りつつCBにアタックし逆サイドに誘導する。ここでバレッラがCHを確実に捕まえ、空いたシャドーの選手をジョルジーニョが捕まえ、キエーザが左CBにアタック。183cmのディ・ロレンツォが空中戦に競り勝ち、ジョルジーニョが回収した。
バックパスに合わせて1列上げて人を捕まえ、ロングボールに対してセカンドを拾えるポジションを確保する一連の流れが落とし込まれていた。
最後の例は、CBが大きく開いてビルドアップを行う際の対応だ。スピナッツォーラが前進できない状態の場合、IHがSBに寄せに出る。この時連動してジョルジーニョが敵CHを消すために前進する。このジョルジーニョのスライドと判断力、先の例のセカンド回収能力は非常に高いレベルにあり、イタリアの守備を支えるものとなった。CBにボールを戻させると、インシーニェがSBを切りながらプレスをかけ、逆サイドに誘導をかける。この時、インモービレはCHのケアを行い、キエーザがSBを切りながらCBへプレスをかけ、4-3-1-2のような形を取った。バレッラもCHとSBを見られる位置へとポジションを修正し、中盤でボールを絡めとることに成功した。
■プレッシングのポイントと課題
バックパスに合わせて1列ポジションをあげて人を捕まえに行く、カバーシャドウをかけながら追撃のプレスをかけるという点がイタリアのプレッシングのポイントとなる。これを実行するためには敵の配置に合わせて柔軟にプレッシングのかけ方や配置を変化させる必要がある。これには敵のシステムや配置を把握する力が必要であり、イタリアの長けている部分であった。
3センターの距離感が肝となる守備であるため、サイドでの守備はウィークポイントにもなり得る。例えば決勝イングランド戦のルーク・ショウのゴールも同様だが、敵SBの位置でWGが対応できず、SBも上がりきれずにIHが対応に出るケースは好ましい状態とはいえない。3センターの距離感が延びてしまうからだ。当然、プレスがかかっている状態であればIHがサイドに進出しても問題が無いが、ボールホルダーがオープンな状態であればリスクを伴うものとなる。スペイン戦なども同様に、SBからの展開でプレスの網を掻い潜られピンチを迎えるシーンが散見された。
とはいえ、ショートカウンターに持ち込むプレッシングは、得点を奪うという攻撃的な側面から見てもイタリアの大きな武器であり、最大の魅力であった。
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いかがでしたでしょうか。
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