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「鳥の眼」で観る欧州サッカー〜【イタリア産ビルドアップの鬼才】デゼルビ・ブライトンの3-4-2-1戦術分析〜後編〜

こんばんは!
FL-UXマーケティングチームです。

さて、今回も、前編に引き続き、とんとんさんによるデゼルビ・ブライトンの戦術分析の後編をお送りしたいと思います。

それでは早速、とんとんさん、お願いいたします!

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■ロングボール戦術

今季ブライトンで増加したロングボールについてはポッターの色がそのまま残されている。

まずはHVが大きく開き、CBのダンクもどちらかに大きく広がり2CB+GKでボールをもつような陣形となる。大きく広がるCBに対し、CFのフィルミノがアプローチをかけると中央のプロテクトが弱まるためWGがアプローチをかける。CBダンクが左サイドに寄ったとすると、アプローチはWGのサラーがかける。この時、CB+HVでサラーとの数的優位ができあがる構図となる。ブライトンはここを見逃さずに2人で前進を図っていく。それに対応するためにリヴァプールはアーノルドが前進。これによりWBのエストゥピニャンが浮く形となるが、加えてウェルベックもサイドに流れてさらなる数的優位を作り上げる。これらの動きに対し、リヴァプールはサイドとDFラインで数的不利となる可能性が高くなる。この状態に持ってきたブライトンはロングボールを利用する。

空中戦の担当はウェルベックとなる。ウェルベックは空中戦において類まれな強さを見せ、CBマティプレベルの相手でも負けずに競り勝つことができる。こういった配置を活かしたロングボール戦術でなく、GKロベルト・サンチェスからのシンプルなロングボールに対しても、ウェルベックがサイドに移動して競り合う形をとることが多い。SBと競り合えれば勝率がグンと上がり、CBが出てくればスペースを生み出すことができる。また、アリスターとカイセドの2CHによるセカンド回収も期待できる。実際にブライトンの1点目はロベルト・サンチェスによるロングボールからの流れであった。

■すべてが詰まった2点目

ブライトンの2点目はすべてが詰まった得点となった。左に開いたCBダンクからCHアリスター、右HVフェルトマンとつなぎ、サイドに降りたシャドー・グロスへと展開。アンカーのファビーニョをサイドに引きずり出した状態で中央へロングボールを送り込む。ウェルベックがアーノルドからボールをキープしエストゥピニャンに預けると、そのままチャンネルに抜け出した。

これにCBマティプが出ていきゴール前は手薄な状態に。トロサールがファーに行く素振りをみせつつニアにスルスルと抜け出すと、グロスと入れ替わってファビーニョの抜けた中央に侵入してきたマーシュがマイナスでボールを呼び込んだ。このマイナスのボールによりマークの外れたトロサールへダイレクトパスが入り勝負が決した。
ビルドアップ、ロングボール、前線の流動性、マイナスクロスとブライトンのすべての特徴が表れた素晴らしいゴールとなった。

■3バックに求められるもの

3バックの選手はビルドアップの担い手としていくつかの重要な能力が求められる。
①CHに当てる配球の意識
②ポジショニング(深さの調整)
③キックスキル、ボディフェイント、キックフェイント

まずは何といってもCHに当てるという意識、それに伴うポジショニングの能力だ。例えばこのビルドアップに関して開きすぎるのは厳禁となる。CHとのリンクが切れてしまううえ、WBへのパスに限定されてしまうからだ。逆にロングボール戦術に切り替えるときは思い切って開く必要がある。

また、「深さ」をとることが欠かせない。例えばCBのダンクはHVに対して斜め後ろのパスコースを提供するサポートのポジションをとっていなければならない。仮に3バックが横一線であった場合、HV間でのパスコースが1本つぶれてしまうことにもなる。3人が近い距離にいることで、HV間のパスも可能となっているのだ。

この深さは、時にHVの選手も必要となる。深さをとったHVに相手選手がマークに出てくる場合、その選手が出てきた分中盤や前線にスペースが生まれるからだ。また、WBへのパスコースも確保しやすくなる。

HVが前進しすぎた場合のデメリットは、
①CHとの距離が近くなるため1人の相手選手にHVとCHの両方対応されてしまう
②WBとの距離が近づき、角度がなくなり深さを出したサポートができなくなる
③相手のアプローチまでの時間が短くなる
といったところだ。

深い・浅いは一長一短であり、深すぎれば2列目への楔の距離が長くなり、通りにくくなってしまう。
つまり2列目やCHとリンクする場合は前進、相手の引き付けやWBへのパスを出す場合は深さをとる等、敵味方のポジションに応じてパスコースを確保できるようにポジションを調整する必要がある。

実際、リヴァプールのプレッシングにはまる場面も見られた。サラーが効果的に逆サイドに攻撃を誘導し、フィルミノがCBにアプローチ、最後にカルバーリョがCHを切った状態からHVにプレスをかけるとブライトンとしてはパスコースの創出が簡単ではなくなる。
プレッシングにはまっても深さをとれていた場合はロングボール戦術に切り替えて対応した。

ボールを受けたDF陣には当然キックのスキルが必須となる。CBのダンクは特に楔を打つスキルが高く、2列目がフリーとなれば餌の2CHを飛ばして2列目へとボールを送り届けることができる。また、「敵を動かす」ことは配球以外でも可能であり、それがボディフェイントとキックフェイントである。左HVウェブスターは、内側に身体を向けた状態でフェイクを入れ、外側にボールコントロールすることでサラーのプレッシングを外すシーンが何度も見られた。右に身体を向けた状態から切り返す、もしくは左にパスをするというフェイントも当然有効で、流れのままにDFラインでパスを回すようなことはしない。3バック共に常に縦パスを入れるためのパス回しやプレーを意識しており、それにおいてフェイントは当然必要な技術なのだ。

これらのスキルはダンク、ウェブスター、フェルトマン全員が身に付けており、ビルドアップのための強固な土台が築かれていることがうかがえる。

■三苫の今後

三苫は65分に途中出場。対峙するアーノルドを何度も振り切り、アシストと言ってもおかしくない3点目につながるパスも供給した。

彼の縦への突破はブライトンの誰もが有していない貴重な武器だ。何度もチャンスを作ったことからも、明らかにチームのプラスとなるジョーカーである。しかし三苫の持ち味はサイドでの突破であり、3-4-2-1においては明確にそのポジションが存在しない。三苫が入ったのちは彼が活きるようシステムにも若干修正が入っている。つまりは4バックが採用されない限り現状スタートのメンバーに入るのは難しいだろう。

シャドーとしてチャンネルに抜けるプレーは見せたが、トロサールのようなライン間での仕事や、グロスのような柔軟なポジション移動は持ち合わせていない。

すでに突出した武器を持つためある程度の出場機会は望める。ブライトンはゴール前でのクロスの入り方が良く、メインターゲットのウェルベックも強く、早く、狡猾であるため三苫によるサイド攻撃は間違いなく大きなオプションとなる。ただし、スタートから出場するためにはシャドーとしての別のスキルを磨くことが重要となっていく。

■守備戦術

守備戦術についてもこれまでの形を踏襲しているが、機能性はいささか落ちている。

プレスをかける際は左シャドーのトロサールがトップ下、右シャドーのグロスがFWに入る3-4-1-2。トロサールがアンカーのファビーニョを見る形でシステムを噛み合わせて対応する。

特徴的であるのは攻撃同様にカイセドとアリスターの2CHだ。これまでアリスターだけが低い位置に留まっていたが、カイセドも低い位置に留まることでセカンドボールの回収及び被カウンターの対応がより安定した。セカンドを回収し、近距離を保つ3トップがショートカウンターを仕掛ける形は1点目の得点を生む結果をもたらした。

ファビーニョにトロサールが付く中で、チアゴがアンカー位置まで降りることでかみ合わせを外しビルドアップの改善を目指すシーンが見られた。局面に応じた柔軟なポジションチェンジはリヴァプールの特徴であるが、ブライトンはボールを回収した際にチアゴの抜けたスペースにボールを送り込むという狡猾さも見せていた。

課題は押し込まれた際の守備だ。3バックで横幅を守るのを厭わないブライトンはサイドに張るサラーに対しウェブスターが開いて対応するものの、低い位置からDFラインの隙間に飛び出してくる選手がいると対応が困難となる。エストゥピニャンが下がってサラーを見れば、絞ったアーノルドに対応する選手が不在となる。阿吽の呼吸でタイミングすらも合わせてくるサラー、アーノルド、ヘンダーソンの右サイドトリオのポジションチェンジの前に、忽ち混乱状態に陥った。

こういったときは皆が下がって人手を増やして守るブライトンであったが、そこからロングボールによる全体の押し上げとプレッシングによるボール回収が図れる点はブライトンの攻撃的フットボールの支えとなっている。ここも整備されているというのはブライトンにとって非常に重要だ。苦手な撤退守備局面をリセットするためにロングボールとプレッシングを活用できるのだ。

ビルドアップで詰まった場合にロングボールを選択して別の局面から攻め進め、攻撃(ビルドアップ)のリスタートをかけられる。複数の選択肢で打開を臨みつつリスタートをかけられることが総合的な強さを生み出している。
ここまではデゼルビ就任初戦での戦術となる。代表ウィークを挟んだとはいえ驚愕の浸透具合であり、今後のブライトンがいかに進化していくかにも要注目だ。

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とんとんさん、ありがとうございました!

いかかでしたでしょうか。

こちらのnoteでは、今後もとんとんさんにご協力いただきながら、新シーズンも開幕した欧州各国リーグの戦術分析をお送りしていく予定です。よろしければぜひフォローをお願いいたします。

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それではまた!


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