
【鳥の眼で観る欧州CL】【準決勝】シティがR・マドリードを攻略できなかった理由とは?
こんばんは!
FL-UXマーケティングチームです。
5月も後半になりました。今日は東京では真夏を先取りしたような暑い一日でした。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
さて、とんとんさんに密着いただいている欧州CLもいよいよ大詰めとなりましたね。今回は、先週1stレグが行われた準決勝、マンチェスター・シティvsレアル・マドリードを分析いただきました。
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CL準決勝マンチェスター・シティvsレアル・マドリード。今大会最も見逃せないカードの1stレグは1-1のドローに終わった。
この試合のシティはいくつものチャンスを作り出し、何度か決定機を演出することに成功した。対するホームのレアル・マドリードは守備陣形内にいくつものスペースを与えながらも、失点はデブルイネのミドルシュート1本しか許さなかった。後半になるとボールを保持してゴールに迫るシーンも増えていった。
この試合においてシティはどのように前進を果たしたのか?なぜ1点しか得点を奪えなかったのか?なぜレアル・マドリードは1失点で抑えることができたのか?
今回はこれらの点にフォーカスしていく。
What a strike from @KevinDeBruyne! 🎯
— Manchester City (@ManCity) May 11, 2023
Highlights of our #UCL semi-final first leg in Madrid 👇 pic.twitter.com/33JiOUob0c
■シティの前進方法
レアル・マドリードの守備、特にリトリート局面は基本的に4-3-3の陣形を組む。ミドルゾーンでのブロックおよび前からプレッシングをかける場合は左IHのモドリッチが1列位置をあげた4-2-3-1に変化する。いずれの守り方においても全体は縦横共にコンパクトな状態とは言えず、ところどころにスペースができている。特にポイントとなったのはWGとCFの間、FWと中盤の間、CHの脇である。そんなレアル・マドリードに対し、マンチェスター・シティは4つの前進方法を見せた。
1.ロングボール

まずはロングボールである。これはマドリーが前線からプレッシングをかけてきたときに実行される。マドリーのプレッシングは、モドリッチがシティのボールサイドのCH(主にロドリ)にアタックすることでスイッチが入る。この時、マドリーの全体の押し上げや圧縮は弱い。さらにマドリーの前線はロングボールを蹴らせた後にプレスバックをかけることがないため、クロースとバルベルデの周辺に大きなスペースが空く。ロングボールのターゲットはハーランドとなるが、そのセカンドボールをデブルイネやギュンドアン、ロドリといった中盤の選手が拾うことで前進を図った。
2.4-2-3-1に対する効果的な配置

4-2-3-1で構えた際のマドリーに対しては普段通りの配置を用いて攻撃を展開した。ベースは右CBストーンズをCHの位置にあげた3-2-5だ。4-2-3-1を崩す際の立ち位置のポイントは下記だ。
(1)2CHは敵の2列目の間にポジションを取る
(2)WGはサイドに張る
(3)IHは敵CHの脇に入る
(1)によってマドリーSHが絞って対応した場合、開き気味に位置するIHへのパスコースが開通する。(2)でWGグリーリッシュとシウバが、マドリーSBのカルバハルとカマヴィンガを釘付けしているため、デブルイネとギュンドアンは敵SB手前のスペースでボールを受けやすくなるのだ。このエリアはプレス回避と押し込みのためにも用いられることとなった。
クロースとバルベルデがここまで開いて対応するのは現実的ではない。ただし、2人が開いて中央のスペースを空けた場合でも、CFのハーランドは楔を受けての展開が苦手であるうえにリュディガーがタイトなマークを見せたためピンチに陥ることは無かった。
3.4-3-3からの変化

シティは4-3-3から3-2-5へと変化する。変化のタイミングは、マドリーのプレッシングがかかっていない状態で、かつストーンズの前方が開けた時だ。
マドリーの中盤とFWは、それぞれの選手間が縦横に広い。ヴィニシウスがウォーカーを見て、ベンゼマが中央に残るためWG-CF間も広い状態がほとんどだ。このスペースを利用して、ストーンズやディアスといったCB陣はドリブルを用いて前進する中央攻撃が多くみられた。ベンゼマがどちらかのCBの対応に動くため、空いた側のCB(図ではディアス)にパスを送り、ディアスが中盤との距離を詰めてパスをつけるためにボールを前に運んでいく。
オープンな状態で運べるようになると、ギュンドアンは高い位置に入り、ロドリは中央に寄っていく。ロドリに対してモドリッチがつくと、右ハーフスペースにスペースができあがるため、ストーンズが前進、ウォーカーが絞ることで3-2-5が形成される。このストーンズとウォーカーの動きも、マドリーのマークのずれを生むうえで効果的なものとなった。CBディアスと逆CHストーンズのパスルートが開通されれば、逆サイドへの展開も容易となる。
4.サイド攻撃

上記のような中央攻撃を嫌ったマドリーが中央を閉ざす場合はどう組み立てるか?中を閉めるのであれば当然外を使う。
まずヴィニシウスとロドリゴの位置が低い時のアプローチは②の時と同様だ。CHを手前に立たせて外を空ける。ヴィニシウスは特に守備に走るタイプではないため、ウォーカーのオーバーラップでカマヴィンガに対して2vs1の優位を作るシーンもいくつか見られた。4バック的な動きが取り入れられていたのもこの試合のシティのアプローチの特徴だ。
ロドリゴがCBにプレッシングをかけてくる場面もしばしば見られたが、カルバハルやカマヴィンガは終始WGのケアを最優先に動いており、プレスへの連動はしない。そのため、余裕をもって空いたサイドのアカンジにボールを送り届けることができた。
敵が中を閉めたらSHの外側およびSBとSHの間のスペースから前進、敵が外に開いていればCBのドライブを起点とする中央攻撃で前進していくのがシティの前進方法だ。シティの4人のDFが空いたスペースに前進したり、逆に戻ったりすることでボールを前進させるため、当然マドリーのプレスははまりにくい。マドリーの中盤と前線の各選手の距離感が広いため、シティはやり直しがいくらでも利く。スペースに向かってドリブルをして、ダメならバックパスコースが確保されているため、ストーンズが思い切ったドリブルをしてもリスクはさほど大きくならなかった。
■シティはなぜマドリーを崩しきれなかったのか?
マドリーの守備はコンパクトさに欠け、シティは上記のような前進を試みる。しかし結果的にマドリーはデブルイネのミドルシュートでしか失点を許さなかった。ではなぜこれだけ守ることができたのか?
まずは中盤とFWの守備から見ていく。縦のコンパクトさに欠けるということは、FWが前方に位置しているということだ。守備ブロックにスペースを空けてしまうことになるが、その分カウンターの脅威を与えることができる。また、CHが保持した際のCB陣へのバックパスにリスクが生まれることにも繋がる。CBからCFまでがパスで繋がることで攻撃に厚みを持たせるシティにとって、CBとCHのリンクが弱まると攻撃の組み立てに影響が出るのは否めない。レイオフパスも用いにくくなる。
こういった中で、クロースやバルベルデで全てのスペースをカバーするのは不可能だ。そこで彼らはCB手前のスペースのプロテクトをマストとし、残りのスペースにはゆったりとしたスライドを見せた。シティのパス回しに対する反応が鈍いのだ。ある程度のスペースの発生は許容する。シティがリーグ戦で戦う他のチームは、これだけCHのロドリやストーンズを放置することがない。敵CHがボールを保持しても慌てないのは昨季から見られたマドリーの特徴だ。CB手前をプロテクトし、ボールが動いてもゆったりとしたスライドにとどめることで中央の侵入は抑える。シティのパス回しに過敏に反応しないこと、パスの出所でなく出し先にアプローチする。常にシティにスペースを与えることとなるが、致命的なスペースは与えない。
ここで重要となるのがSBだ。ボールホルダーとなるCHにプレスがかからない状態、さらにWGがさほど戻らずサイドにもスペースが生まれている状態で、グリーリッシュとシウバというドリブラーを相手にしなければならない。このタスクを右のカルバハルと左のカマヴィンガは見事にこなして見せた。
カマヴィンガはアジリティに長け、ギリギリのところで脚が伸びるタイプのプレイヤーだ。シウバとの相性は良いといえる。シウバを完封した上にオーバーラップを見せるウォーカーにも対応を見せ、先制点につながるパス&ドリブルを駆使したプレス回避も見せた。対人守備でのボール奪取に強さを見せたが、チェルシー戦では裏を取られるシーンもあったように、連携攻撃やオフザボールのケアには2ndレグで注意が必要だろう。
カルバハルもグリーリッシュに対して危険な突破を許さなかった。また、彼は大きく移動するロドリゴやバルベルデとのバランスをとる役割も担っている。特に攻撃時にIHのような位置まで移動する機転はマドリーの大きな支えとなった。
そして、クルトワの活躍も見逃すことはできない。ハーランドやデブルイネが抜け出すピンチのシーンも見られたため、彼無しではこのような結果を得ることはできなかった。
過敏に反応せずに致命的なスペースの発生を防ぐゆったりとしたスライド、カルバハル、クルトワ、カマヴィンガの奮闘は外せないポイントとなった。

シティ目線では、攻撃のアプローチに改善の余地が見られた。この試合、マドリーのSBとWGの間のスペースが攻略ポイントとなった。このエリアをシティはIHに使わせたが、WGに使わせることで、より多くのチャンスを迎えることができたと考えられる。IHにチャンネルへのランニングをかけさせる攻撃パターンだ。
マドリーの中盤はDFラインへのカバーまではこなさず、ケアするとしたらCBの役目となる。そうなるとハーランドへのクロスも有効な攻撃として機能させることができただろう。実際にデブルイネが後半の頭にチャンネルへの抜け出しで大きなチャンスを迎えている。
これも、オープンな展開でマドリーの速攻を喰らうのを嫌ったという可能性も考えられる。マドリーのプレス回避能力はこの試合でも随所に見られた。アウェイということもあり、大きなリスクを負わずに最低限の成果を得ようという考え方で試合に臨んだ可能性もある。
仮にそうであれば、1stレグはペップのプラン通りであったともいえる。
■セカンドレグの展望
決定機の多さでややシティ優勢、後半はマドリーがボールを保持してゴールに迫り、互角とも言える戦いを見せた両チーム。決勝トーナメントに入ってからのシティはアウェイを3試合とも1-1で終えており、ホームで爆発的な破壊力を見せて勝利を収めている。アウェイでは大きなリスクを負わずに最低限の成果を得ようという考え方であれば、1stレグの戦い方にも納得できる。2ndレグでその答えが分かるだろう。
マドリーの守備は、許容範囲であるとはいえところどころにギャップが発生しており、2ndレグではホームのシティが優位に運ぶ展開が予想される。しかし、そういった状況でも勝利を掴み取ることができるのがレアル・マドリードだ。彼らは多くの人数を絡めた遅攻による攻撃だけでなく、2-3人のユニットでの連携でゴールを奪うことができる。そのためシティにとっては一瞬たりとも気が休まらない。
ライプツィヒやバイエルンを撃破したように、シティがホームで強さを見せるのか?
はたまたマドリーが独特の守備と少数による攻撃完結力で決勝へとコマを進めるのか?
事実上の決勝戦ともいえる、見逃せない1戦となる。
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とんとんさん、ありがとうございました!
2ndレグは明日5月18日4:00キックオフです。両チームがどう戦うのか、今からとても楽しみですね!
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それではまた!
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