【選手の色を全面に】モウリーニョ・ローマの4-2-3-1戦術分析〜後編〜
こんにちは。
今回も前編に続けて、とんとんさんによる欧州サッカー分析・イタリア編です。名指揮官モウリーニョ率いるローマを分析しています。前編をまだお読みでない方は、ぜひ前編からお楽しみください。
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■2列目(ムヒタリアン、ペッレグリーニ、ザニオーロ) 2列目はテクニカルなムヒタリアン、ペッレグリーニ、推進力のあるザニオーロで構成される。彼等はそれぞれ得意なエリアやプレーを持ち、そこで勝負を仕掛けていくためさほどプレーや役割が被ることが無い。 まず左SHのムヒタリアンはハーフスペースに入り込み、ひたすら敵中盤とDFのライン間でボールを呼びこむ傾向が強い。ターンの技術の高い彼はライン間で器用に前を向いて攻撃の展開を図っていく。 これに対して中央のペッレグリーニもターンの技術が高くライン間を主戦場としているが、ムヒタリアンに比べ周囲の動きに連動してボールを受ける傾向が強い。
4-3-1-2の敵に対してアンカーがカバーしきれないサイドのスペースまで移動してボールを引き出し内側にターンして攻撃を展開する、ザニオーロがサイドに張ることで空いたチャンネルに抜け出す、瞬間的にポジションを落としてCHからボールを引き出し、自身を経由させて逆サイドへの展開を促すといったプレーは頻繁に見られ、攻撃に連動性を与えている。 右SHのザニオーロは、現在セリエAで最も独力での打開に長けた選手といっても過言ではない。
スピードとパワフルさを兼ね備えた推進力あるドリブルはどんな相手に対しても脅威を与えることができる。そんなボールを持たせたら恐ろしい彼は、当然デコイにうってつけの存在でもある。彼は主に3つのパターンでポジションを取る。
まず1つはサイドに張った位置取りだ。ボールを受ければドリブルで敵陣深くまで運ぶことができ、受けることができなくても敵SBを外に釣り出すことが可能となるため先の例のようにペッレグリーニがチャンネルへ侵入しやすくなる。シンプルに裏に送りこまれたボールに追いつくフィジカルとスピードも兼ね備えている。
2つ目は絞ってライン間に入り、敵DFの裏を狙える位置取りだ。彼のスピードはサイドでも中央でも裏に抜け出すうえで活かされている。彼が絞ることで、右SBのカルスドルプがスピードを活かして駆け上がり、大外をフリーで利用できるというメリットもあるのだ。
そして3つ目が、ライン間に留まらず敵中盤手前まで降りた位置取りだ。これは敵の中盤を釣り出してライン間を広げる、SBを押し上げるといった効果もあり、攻撃に違った展開をもたらす位置取りとなっている。 190cmと長身でフィジカル能力に長けた彼はどの位置でボールを受けてもキープして運ぶことができる。しかし現状はデコイとして利用されることが多く、ボールを受けるのは彼の能力に託した難しい局面であることが多い。そのためドリブルで目立つことは多くないが、ドリブルを武器としている彼だからこそ生まれる、自身の「デコイとしての価値」を十分に活かした黒子役として、数字に表れない貢献を見せている。
そんな彼らによって構成される2列目は、「ライン間で受ける選手」、「ドリブルとデコイを駆使する選手」、「味方に連動する選手」と、選手の特徴が異なるため位置取りやタスクが被ってしまうことはさほど多くない。
■CF(エイブラハム)
エイブラハムは基本的に最前線に位置し、CHの項で説明したように敵の死角に潜り込みながら虎視眈々とゴールを狙っている。フィジカル、スピード共に申し分なく、エリア内では長身と長い四肢も活かしてネットを揺らす。 それほど無理して繋がず、思い切って裏を狙う傾向が強いチームであるため、裏に抜け出すプレーは常に狙っている必要があり、死角に潜り込むプレーは当然脅威となっている。また高低のロングボールの収め所としても機能している。
■エンポリ戦でのゴール
7節エンポリ戦で見せた先制ゴールは、彼らの特徴の存分に表れたゴールのひとつだろう。ボールを持ったCBのマンチーニから中盤のギャップに入り込んだムヒタリアンがボールを呼びこみ、前を向く。するとエイブラハムが敵の右CBの背後に抜ける動きを見せることで敵左CBを自身に釘付けにし、空いたスペースにペッレグリーニが侵入し、落ち着いてゴールに流し込んだ。
この時、降りたザニオーロと右SBカルスドルプが敵の左SBの注意を引くことで中央にスペースを生み出している。
わずか2本のパスで、見た目には非常にあっさりとした得点である。しかし、それぞれの配置と能力を駆使し、たった2本という最高効率でエンポリ守備陣を穿ってみせた恐ろしいほどに美しいゴールでもある。チーム・個人の特徴がよく現れていた。
■守備戦術
ローマは4-2-2-2にて守備ブロックを組み、センターサークルの先端辺りからプレッシングを開始する、今ではオーソドックスな形である。中央を封鎖する意識が強く、ムヒタリアンがトップ下を務めたラツィオ戦では効果的に中央のエリアを封鎖し、ペッレグリーニがトップ下を務めたナポリ戦ではキーマンであるファビアン・ルイスに徹底してマークに付いた。
さほど大きな問題なく守れるものの、敵を追い込むようなプレッシングはかけられないため、絞り気味のSHの横腹を突く、横腹を突くと見せかけてSHを外に広げて中に楔を通すといった揺さぶりをかけてくるチームに対しては苦戦するケースも多い。現状、ボールを保持することが失点を回避する最大の盾となっている。SB背後のスペースに関しては出遅れることなくマンチーニとイバニェスがケアを行っている。 カウンター攻撃への移行は比較的スムーズであり、逆サイドでハーフスペースに立って守るSHが起点となることが多い。
■おわりに
ローマはオーソドックスだが安定して守れる守備陣形を採用し、攻撃においては各選手の個性と得意な形を重なり合わせることでゴールに迫っている。 この戦い方での不安材料は何といっても選手起用による変化だ。選手の特徴のバランスが取れていれば良いが、選手が変わることでズレが生じれば攻撃の歯車が嚙み合わなくなり、ゴール欠乏症に陥るだろう。ビルドアップにおいても明確な型が存在しないため、3バック化でのビルドアップに磨きをかけ、実行頻度を増やして戦うのも面白いだろう。 攻撃に安定感をもたらすためにはある程度の型が必要となる。
ベストメンバーであってもひとたび歯車が狂えば深刻な問題となる可能性は決して低くない。今後モウリーニョの手腕でどのように変わるのか注目だ。
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いかがでしたでしょうか。
次回は首位ナポリに関する記事を予定しています。お楽しみに!
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