
「鳥の眼」で観る欧州サッカー〜【イタリア産ビルドアップの鬼才】デゼルビ・ブライトンの3-4-2-1戦術分析〜前編〜
こんばんは。
FL-UXサポートチームです。
10月に入り、弊社本社がある東京は少しずつ冷え込んできました。外でスポーツをするには良い気候かもしれません。
皆さま、いかがお過ごしでしょうか。
さて、本日は、大人気、とんとんさんによる「鳥の眼」シリーズ、今回は新たにデゼルビ監督が就任したブライトンに着目しました。
先日公開したポッター・ブライトンに関する分析記事と読み比べてみても面白いと思います。
それでは、とんとんさん、お願いいたします!
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グレアム・ポッターがチェルシーへと移ったブライトンは、新監督としてシャフタール・ドネツクの43歳イタリア人指揮官デゼルビを招聘した。
デゼルビの指揮するチームはどれも流麗で機能美に溢れたビルドアップに特徴を持つ。ブライトンも例にもれず、彼の招聘から間もないものの初戦となったリヴァプール戦では既に彼の色がチームに浸透していた。
後方で丁寧に組み立てるビルドアップはデゼルビの特徴が色濃く出ており、ロングボールやポジションチェンジについてはこれまでのポッターの色が明確に残っている。
今回はそんなデゼルビ・ブライトンの戦術について、リヴァプール戦をベースに分析する。

ブライトンの基本布陣については、ポッターが率いていた6節までとほぼ同じである。
中盤の形のみ変化があり、逆三角形の構成からアリスターとカイセドの2CH+2シャドーという形となった。さっそくデゼルビの色が出ている。
This last minute save from Rob... 😲🙌 pic.twitter.com/At4iFUe8kk
— Brighton & Hove Albion (@OfficialBHAFC) October 2, 2022
■チームのスタイル
Hat-trick hero. 🦸♂️🌟 @BrightonTools 📺 pic.twitter.com/QUdKjW5gTp
— Brighton & Hove Albion (@OfficialBHAFC) October 1, 2022
ポッターが率いたブライトンは、今季に限ってみるとポゼッション率が高くなかった。その代わりロングボールと前線からのプレスを効果的に用い、3つをバランスよく駆使することで詰まることなくゴールに迫っていった。
デゼルビに変わったのちもプレッシングとロングボールが欠けておらず、ビルドアップでの粘り強さと精度が格段に上がった。
ポイントとなるのは下記の点だ。
・「餌」と「復活」を駆使したビルドアップ構造
・「ボールを持たない2人組」をコンセプトとした前線のポジショニング
・クロスボールの入り方
・数的優位を作ったロングボール戦術
■「餌」と「復活」を駆使したビルドアップ構造
ブライトンのビルドアップはまさに現代フットボールのお手本と呼ぶにふさわしいものだ。攻撃時のシステムは3-4-2-1。ビルドアップは3バック+2CHがメインで行われる。基本的に両HVがペナルティエリアの幅程度で開きすぎず、2CHはDFラインに降りず動きすぎない。
リヴァプールは4-3-3にて高い位置で待ち構える普段通りのプレッシングであり、WGがやや絞って中央を牽制し、CHにボールが入るとIHが前進してケアをしていく。アリスターとカイセドの2CHはリヴァプールの前方6人の囲いの中にいる形だ。


ブライトンの狙いはパス回しで相手を動かすこと、相手の背中のスペースから前進することだ。そのキーマンとなるのが囲いの中にいる2CHとなる。
まず3バックの選手はCHにパスをつけることを第一の選択肢とする。ここにパスを入れると当然WGは中央を警戒し、IHは前進という形でボールに視線と注意が集まり、守備ブロックが動く。
CHはシンプルにワンタッチでボールを捌く。囲いの中であるため当然ロストの可能性も高いが、あくまで彼らは敵をひきつけ展開するための「餌」の役割となる。CHはシンプルにワンタッチで捌くだけであれば、マンマーク気味に相手を背負っていても事前にパスの供給先さえ選定できていればそれほど難しいプレーとはならない。いかにシンプルに、事前にパスの出し先を検討しておくかがカギとなる。
CHのパスの出し先(その後の展開方法)は上図にある通り大きく3つだ。敵WGの位置に応じて展開のルートが変わっていく。
①WGが高めの位置にいる場合:CB→CH→WB(WGの影を使う)
②WGが低めの位置で絞っている場合:CB→CH→HV→WB(絞ったWGの脇を使う)
③WGがCHにプレスをかける場合:CB→CH→CH→WB(CH間のパスで死角を消す)
「CHに当てる」。相手を動かしつつ展開するうえで最も重要な部分だ。これをもとに相手の空けたスペースを突き、消されたパスコースを「復活」させていく。
これらにより複数の展開を模索することができる。敵WGがどこに位置してどこにスペースを空けるのか。それに応じて攻撃を展開していく。③のようなCH間のパス交換は、互いに互いの背中が見える形となる。1人ではターンしないと展開できないパスコースも、2人で互いの背中を見て死角を無くすことで、360度の展開が可能となる。つまりはCHの距離感というのも重要となる。
そして「相手が最初に消した影を使う」こともまた重要である。例えば②は敵を動かして空いたスペースを使っているが、①と③は敵が最初にパスコースを切って消したWBを使うようにパスが回される。
敵WGがHV→WBを遮断しても、HV→CH→WBとつなぐことで、消されたはずのパスコースを復活させることができる。守備側にとって「ここのパスコースが切れたからこう守ろう」と守備が進んでいくのにも関わらず、一度消したパスコースを復活させられてしまうとその前提が崩れ、ボールの奪いどころが無くなり1から守備をやり直す必要が出てくるため非常に厳しくなる。
このようにCHは「餌」と「復活」の2つの役割を持つのである。「餌」が②、「復活」が①と③のパス回しだ。パスコースを切りつつ守備を行う現代フットボールにおいて重要なコンセプトとなる。
アリスターに関しては状況に応じてターンをすることも可能だ。ロストが少なくパスの出し先の判断も頭抜けており、サッリボールのジョルジーニョと等しくまさにデゼルビ・フットボールにベストマッチした申し子とも言うべき存在となっている。
■前線サポート(ボールを持たない2人組)
後方のプレイヤーは上記のような形でビルドアップを行っていく。その際、前線のメンバーはパスコースを提供する立ち位置をとることでサポートする。

例えば右WBのマーシュが高い位置をとりSBツィミカスを釘付けにすることで、右シャドーのグロスがサイドに大きく空いたスペースに降りて顔を出しやすくなる。ここはリヴァプールにとっては全く手の届かないエリアとなり、ボールの前進に大きく貢献した。このような「ボールを持っていない2人組」で優位を作り、ボールの供給先を作るというコンセプトはいたるところで見られ、大きなポイントとなっている。
グロスがボールを受けた場合、WBのマーシュが絞ることでそのままポジションを入れ替えることができる。
CFウェルベックや左シャドーのトロサールはアンカー脇の隙間から顔を出していく。特にトロサールは、ウェルベックがCBを釘付けにすることで空くCB-中盤の間のスペースを有効活用した。

右サイドにボールがある時もピッチ中央まで絞ってこのスペースに侵入することで効果的にボールを受け、かつ連携がとりやすいよう選手間の距離も短く維持し、ハットトリックまで達成して見せた。これもウェルベックとトロサールという「ボールを持っていない2人組」で優位を作るというコンセプトによるものだ。
■ファイナルサードでの崩し
前線のメンバーは近い距離を維持しているため、ウェルベックが前線でCBを釘付けにすることで空いたDF-中盤間のスペースに潜り込むだけでなく、ウェルベックが降りて空いた裏のスペースに抜け出す動きもみられる。前線3枚が中央で段差をつけることによりスペースを獲得していくのだ。2レーンを3人で共有するようなイメージである。
このようにマーシュを含む前方4人は柔軟にポジションを移す。そのため無駄な体力を使わずに入れ替わったままプレーすることができ、カットインしたマーシュが勢いそのまま逆サイドのハーフスペースに抜けるシーンも見られた。
King of The Kop. 👑 @LTrossard 🎯 pic.twitter.com/QAp421DJlO
— Brighton & Hove Albion (@OfficialBHAFC) October 3, 2022

この近い距離感はクロスボールの入り方にも影響を与える。基本的にクロスボールに対してニアの選手→ファーへ、ファーの選手→ニアへ交差するように飛び込んでいく。ウェルベックがニアに飛び込む際、トロサールはファーに流れずにマイナスのクロスを受けるポジションをとることも多い。敵CB1枚に対し前後でボールを受けるポジションをとれば、物理的に対応が難しい。仮に逆サイドのCBが出てくれば、ゴール前に大きなスペースができあがる。当然これもコンセプト通り、「ボールを持たない2人組」によるものだ。
三苫の投入後はチャンネルを使った攻撃も増えた。これに対して敵CB1枚がチャンネルまでカバーに出てくれば、ゴール前ではより優位な状況を作り出すことができる。
メインターゲットのウェルベックは敵DFとの駆け引きも上手い。ゴール前で敵CBから離れてSBに寄ることでマークをぼやかす、背後をとるふりをしてマーカーの首振りが終わった瞬間に手前に抜ける等、狡猾な手法を用いてゴール前で合わせるシーンが多く存在感を放っている。
こういった動きに、マーシュやグロス、エストゥピニャンから精度の高いクロスが供給された。
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とんとんさん、ありがとうございました!
記事は後編に続きます。
後編では、三苫選手の今後の活躍などについても触れております。是非続けてお楽しみください!
こちらのnoteでは、今後もとんとんさんにご協力いただきながら、新シーズンも開幕した欧州各国リーグの戦術分析をお送りしていく予定です。よろしければぜひフォローをお願いいたします。
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