
「鳥の眼」で観る欧州サッカー〜【技巧派達によるプレッシング戦術】マーシュ・リーズの4-2-3-1戦術分析〜前編〜
こんばんは!
FL-UXマーケティングチームです。
さて、本日は、とんとんさんのご寄稿でお送りしております『「鳥の眼」で観る欧州サッカー』シリーズをお送りさせていただきます!
本日はプレミアリーグのリーズ・ユナイテッドに着目いただきました。
前編、後編に分けておりますので、ぜひ2記事続けて、ごゆっくりお楽しみいただけたらと思います。
それでは、とんとんさん、お願いいたします!
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アメリカ人監督ジェシー・マーシュの元、今季プレミアリーグ第3節でチェルシーを3-0で撃破、5節終了時点で7位と健闘を見せているのがリーズ・ユナイテッドだ。
リーズはいま欧州でも最も機能性の高いプレッシングを見せるチームの一つだ。プレッシングをベースに攻守がシームレスな関係性を見せ、チームとしての機能性も充実している。選手個々人も能力が高く、今後の活躍が期待される若手プレイヤーも多い。
マーシュは昨季途中でビエルサに代わって監督に就任。夏には新加入選手も多数迎え、監督の目指すサッカーを実現するための準備が整い、躍進の期待できるチームである。
今回はそんな若く勢いのあるリーズ・ユナイテッドの戦術を分析する。
■基本布陣

基本布陣は4-2-3-1だ。
GKにはビッグセーブでチームに貢献する22歳メリエ。
右SBには187cmと長身でフィジカルコンタクトに強いクリステンセン、CBには共に出足の良いコッホとジョレンテ、左には狭いスペースでパスを回せる190cmのストライクが入る。
CHにはプレミア屈指の守備範囲の広さとボール奪取を見せるアダムス、セカンドボールの回収とビルドアップでも貢献できるロカが起用される。
前線はけがの影響もあり流動的だが、右にプレッシングが上手くライン間で決定的な仕事のできるテクニックを備えたアーロンソン、中央に正確なシュートを持ちリンクマンとしての役割をこなせるロドリゴ、左に突破力と献身的でクレバーな守備が売りのハリソンが入り、巧みなドリブルで魅せるシニステラも存在感を放っている。
CFには動き出しの良さと高精度のシュート技術を持つバンフォードが入る。
ここまでのメンバーのうち、5名が今季新加入となり、スカッド平均年齢はプレミアの中で2番目に若い24.8歳である。
🥶 New season, same Iceman! pic.twitter.com/jPieVbzM52
— Leeds United (@LUFC) August 7, 2022
■チームのスタイル
リーズのサッカーは「狭く、早く」だ。守備時には激しいプレッシングでボール奪取を試みる。ビルドアップで広がった相手からボールを奪うと、幅を使わずにショートパスでゴールへの最短距離を突き進む。ボールを奪われた際の切り替えも早く、ショートカウンターからの得点も多く生まれている。狭いエリアでボールを扱う技術、プレッシングにおける守備能力とスタミナが求められる。
■守備戦術
リーズ最大の特徴がプレッシングである。できる限り前方で敵を捕まえて奪取、もしくはロングボールを蹴らせて回収していく。
3-0で完勝したチェルシー戦のプレッシングは以下のような形だ。

この試合は4-2-3-1でのプレッシングとなった。まずはCFバンフォードと2列目3人でチェルシーの2CHを挟み込むようにセットする。CBのチアゴ・シウバから隣のCBにパスが出されるとバンフォードがチアゴ・シウバをケア、ボールを受けたCBにSHがアプローチ、トップ下のアーロンソンと逆SHがボールサイドにずれて2CHを捕まえる。
ボールが敵WBに渡ると前進したSBとSHのプレスバックで挟み込み、敵シャドーはCBがケア、CHは状況に応じて敵CHもしくはシャドーからのボール奪取を狙う。CBのジョレンテやコッホはSB裏のケアまで行き届いており、裏に走られた場合も対応可能だ。
Rodrigo 🤝 Scoring against Wolves pic.twitter.com/JEBF6eDnCH
— Leeds United (@LUFC) August 6, 2022
逆サイドにボールがある時のSHはピッチ中央まで絞っていく。そうすることで相手のやり直しを防ぐだけでなく密集でのセカンドボールの回収、速攻に転じた際にCBの背後に抜け出す等して守備の穴を瞬時に突くことができるのだ。
SHはプレッシングの中でも特別タスクが多い。状況に応じてWB、HV、CB、CHとマークの相手を変えていく必要がある。それでもSHを務めるハリソン、アーロンソン、ジェームズはいずれもタスクを全う、絞りを怠ることなくチームの約束事を遵守している。
🔥 That press! @AaronsonBrenden pic.twitter.com/c9M2KWG4Sy
— Leeds United (@LUFC) August 21, 2022
チェルシー戦の先制点となった、アーロンソンがGKメンディからボールを奪取したシーンは、メンディに対してリーズのプレイヤーが勤勉にプレッシングをかけているのとは対照的に、メンディにパスコースを作る動きをチェルシーDF陣が誰一人行わなかったのが印象的だ。ロングボールを蹴るにしても、チームとしての約束事や疎通に差が出たといえる部分だ。
前線の4枚でボールサイドに誘導しつつプレスをかけることができるリーズは、実質4人で3CB、2CH、逆WBの6枚をケアしているのに等しい。CHのタスクが通常よりも減る中で、WBに対してCHのアダムスがアプローチをかけるシーンも目立った。ライプツィヒから加入したアダムスは運動量とボール奪取力がリーグでも屈指のプレイヤーであり、素早く勤勉なスライドで居てほしいところに居てくれる、チームにとってこの上なく頼りになるプレイヤーだ。SHやSBがWBに対応できない際にはアダムスがサイドまでスライドしてボールを奪取していく。同じく3バックシステムを採用するサウサンプトンに対しても、同様のマッチアップが見られた。

4-2-3-1を採用しているウルブスのような、4バックでビルドアップを行う相手に対しては4-2-2-2の陣を敷く。敵CBに対してFWがCHへのパスコースを切りながらアプローチをかけ、敵SBにボールが渡るとSHが敵CHへのパスコースを遮断するようにカーブを描きながらプレッシングをかける。さらに逆FWはボールサイドのCHに背中から忍び寄り、ボールサイドのFWもCBを切りながらCHへプレスバックをかけられるように位置をとる。敵SHに対してはSBが強くプレッシャーをかけ、前を向かせないのとともにボールコントロールのミスを誘発する。ここでボールキープされ、カットインを許すとなると途端にプレスが機能せず厳しくなる。右SBのクリステンセンはぶつかり合いにも強いタフな選手であり、適材であるといえる。
またこの守備において最も避けるべき点が、SB→SH→CHと繋がれてプレッシングを回避されることだ。そのためなるべくコンパクトな陣形を保ちSHとFWでCHを消すこと、SBのプレスで相手SHの圧力をかけることが重要だ。そしてCHの働きも重要となる。敵CHを消すような位置から、SBとの挟み込みでボール奪取を行う必要がある。多くの場合敵CH寄りに立ち、ボールが敵SHに出てから挟み込みに行く。特にアダムスはここでの挟み込みが抜群に上手い。
いずれのプレッシングにしても、敵のCHを経由させないという点は徹底されている部分だ。
相手が中央のスペースを狙って楔を入れてくる場合、もしくはロングボールを蹴りこんでくる場合、CBおよびCH陣の見せ場となる。コッホは空中戦に強く出足も良いため、CHの隙間を縫うようなボールを前進して奪取するシーンが多々見られる。空いたスペースはジョレンテと2CHを中心に埋めていく。この関係性は、4人のうち誰が前進守備をしても同様だ。
🎯 "Low drive... OHHHHH YES!! Pickford didn't move!" pic.twitter.com/uoAKJ62mFo
— Leeds United (@LUFC) August 31, 2022
セカンドボールに関してはアダムスに加え、フィジカルの強いCHロカも素早い反応で回収することができる。左SBのストライクは細かいエリアでのボール回しに長けたプレイヤーだが、守備の面では状況に応じてサイドを捨て、CHの位置まで絞ってセカンドボールを回収することも可能であり、中盤を補佐する。ハリソン、バンフォード、アーロンソンは周囲の味方を見てプレスの開始タイミングを変えられ、サポートもできるクレバーな守備を淡々とこなしている。こうした守備でボールを自分たちのものにすると、密集を活かして素早く攻め込んでいく。
■守備における課題
プレッシングをベースとするチームは消耗が激しいためスタミナの切れる後半の戦い方に課題が残るが、リーズの場合ハリソンやアーロンソン等、前線に守備が得意なプレイヤーが多く中盤にはスタミナがあり同様守備を得意とするプレイヤーが並ぶため、4-2-2-2でブロックを作り安定した戦い方で臨むことが期待できる。また交代枠が5人となったことでカバーできるという側面もある。
課題となるのは、SBがプレッシングに参加した際にDFラインを襲うロングボールだ。
例えばウルブスにはプレミア随一のキック精度を誇るルベン・ネベスが中盤に君臨する。リーズがプレッシングをかけた際、SBが前進して最終ラインが3vs3になると、1人1人がカバーしなければならないエリアは当然4人の時と比べて広くなる。
パワーとスピードを兼ね備え周りを使うこともできるネトとファン・ヒチャン、狭いスペースでもボールを捌いてパスを出せるギブス=ホワイト(→フォレストへ移籍)へ、ルベン・ネベスからロングボールを送り込まれピンチに陥るシーンは何度も見られた。失点シーンはまさにロングボールが起点であった。
チェルシーは中央にスターリング、ハフェルツ、さらに大外にロフタス・チークを配置することで人数をかけてチャンスを演出している。

ブライントン戦も同様だ。4-3-3でCBが大きく広がってビルドアップを行うブライトンに対し、リーズはCFが敵CB間、SHがボールホルダーである敵CB、SBが敵SBに前進、中盤はマンツーマン気味にプレッシングを敢行した。こうなると最後方は3vs3の同数となり、一人一人が広いスペースをケアし、確実にはじき返していく必要がある。そんな中でスピードと高さがありいろいろな形でボールを収めることのできるCFウェルベックに手を焼くこととなった。
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とんとんさん、ありがとうございました!
いかがでしたでしょうか?
続けて後編もお送りします。
こちらのnoteでは、今後もとんとんさんにご協力いただきながら、新シーズンも開幕した欧州各国リーグの戦術分析をお送りしていく予定です。よろしければぜひフォローをお願いいたします。
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