
【東京大学ア式蹴球部 連載 vol.4】映像を活用した自チーム分析とフィードバック
こんばんは!
3月も残すところわずかとなりました。学生の方は卒業式や先輩の引退、社会人の方は年度末の追い込みなどでお忙しい時期かと思います。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
本日は、プロサッカーアナリストの杉崎健さんのアドバイスも受けながら、テクニカルユニットの皆さんを中心にチーム全体でプレー分析を実践している東京大学ア式蹴球部さんによる連載第4弾をお送りします。
(過去の連載記事はこちらからご覧いただけます。)
今回は、映像を使った自チーム分析とチームへのフィードバックについてまとめていただきました。日々の活動の中でされている工夫や課題感に関するお話は、他大で同じように分析を担当されている方や、これから分析を始めようと思っている方にも大変参考になる内容ではないかと思います。
(ここから、東大ア式蹴球部さんの文章です。)===========================
スカウティング、リアルタイム分析、自チーム分析。これは前回の記事でも冒頭で述べられた、東大ア式テクニカルの仕事の三本柱です。これまでの連載でスカウティングとリアルタイム分析について詳しく紹介してきたので、今回は自チーム分析、とりわけ映像を用いたフィードバックを中心に紹介します。併せて、FL-UXを用いる中で重宝している機能についてもいくつか紹介していきます。
週末の試合が終了すると、1週間後にはもう次の試合が待っています。試合に出場した選手は来る次の試合に向けて早急に自分のプレーを振り返り、改善するよう努めます。その手段としては、例えば選手どうしでお互いのプレーについて「もっとこうしてほしい」と要求しあったり、コーチと一緒に試合映像を見てアドバイスをもらったりすることが挙げられます。
その過程にテクニカルスタッフも積極的に介入しようということで、昨季途中よりテクニカルユニットをあげてのフィードバックに乗り出しました。
では次に、その具体的な方法について述べていきます。テクニカルスタッフはポジションごと(CB、左サイド等)に振り分けられ、該当ポジションで出場した選手を中心に試合映像を見返します。その中で気になったシーンは切り出してクリップとして保存しておくのですが、ここでFL-UXの出番です。
FL-UXでは、事前に選手名と背番号を登録しておくと、試合ごとに出場選手とフォーメーションを記録することができる上、選手交代やフォーメーションの変更も記録・保存することができます。さらに、そうした選手個人をタグとして用いてプレーの標識ができる機能もついており、クリップを選手ごとに分類するのに役立っています。タグづけされたクリップには簡単にコメントをつけ、どのような意図を持ってそのシーンを切り出したのか、どのプレーが良かったか・悪かったかなどをメモしておきます。このようなFL-UXのタグづけ機能は、フィードバックの対象とする特定の選手のプレーだけを後から見返したい場合のほか、スカウティングにおいて対戦相手の個人分析をする際にも大いに役立っています。

切り出したクリップには、より視覚的に訴えかけるために描画をすることも多くあります。上の写真は、FL-UXの試合ページを開いた画面下部にある、スケッチツールの一覧を写したものです。この中からいくつか利用例を紹介しましょう。
左から2番目の「マーク」は選手の足元に円盤状のマーキングをすることができ、特定の選手を目立たせたいときに用います。それだけかよ、と思われた方もおられるかもしれませんが、これが意外と役に立つんです。我々は基本的に、ピッチ内のフィールドプレーヤー全員が映るように試合の映像を撮影するため、一瞥しただけでは誰がどこにいるか分かりにくい場合もあります。そこで、初見の選手がストレスなく映像を見られるようにするため、それに私たちテクニカルが後から見返しやすくするため、言及する選手をマーキングすることは重要なのです。
左から3番目の「ライン」は、選択した複数の選手の間を折れ線で繋ぐことができます。例として、DFラインが揃わず簡単に裏抜けを許してしまう場面が続いたとしましょう。そのときは、ガタガタのDFラインを描画によって強調し、ラインコントロールを意識するようフィードバックします。そのほか、ボランチ間の距離が空きすぎているシーンに描画して、「スライドをサボっているので気をつけよう」と伝えるといった使い方も考えられます。
右から2番目の「動き方」は、マークと矢印を組み合わせたような描画をすることができ、文字通り特定の選手の動き方について言及する際に利用します。FWの選手に対して、「ここはライン間で待っているよりワンツーでチャンネルに走り込んだ方がよかったのでは?」とアドバイスする際に用いるという例が挙げられます。
タグづけによるシーンの切り出し・スケッチツールを用いた描画を済ませたら、その中から実際に選手たちに共有したいクリップを選定し、プレイリストを作成します。ここでもう一つ、筆者が便利だと思うFL-UXの機能があります。それは、プレイリストを書き出してmp4の形でダウンロードできることです。こうして完成したプレー集を簡単なメッセージとともに該当選手や関係する他の選手に送り、テクニカルからのフィードバックは完了です。
とここまで映像を用いたフィードバックについて述べてきましたが、昨季のフィードバックについては、テクニカル全体としても個人的にも決して満足いくものではありませんでした。フィードバックの重要性についてはテクニカルとしても認識していたことから、先述のとおりシーズン途中でポジションごとに班を作り、活発なフィードバックを促進しようとしました。ただ、突貫工事的に導入したこともあり、スカウティングに忙殺されてフィードバックの質・量とも不十分になってしまいました。また、映像を作成して選手に共有するまでに試合後1週間近くかかってしまう場合もあり、翌週の練習や試合に十分に影響を与えられませんでした。これはテクニカルユニットとしての大きな反省点です。これを活かし、今季はスカウティングとフィードバックの効率的な両立を目指して、組織としてのフィードバックの体制を抜本的に見直そうとしています。
最後に、映像をデータと組み合わせた形でフィードバックに活かそうという取り組みについて少しだけ触れておこうと思います。
数年前、多くの時間と労力を割いてデータを“集計”していたテクニカルでは、それを“利用”してチームに還元するところまで手が回らずにいました。そこで、データ集計における手作業の部分の削減と、取得するデータの絶対量の増加を目指し、ツールのアップグレードや自動化プログラムの構築に取り組んできました。その結果、昨季途中からは、公式戦を終えて数日中にさまざまな方法でデータを集計し、たくさんの情報を詰め込んだマッチレポートというものを作成できるまでに至りました。そのデータを試合でのプレーと絡めながらフィードバックする動きも出てきています。
しかし、データを利用したフィードバックについても、これまた昨季のままでは不十分であると言わざるを得ません。その原因としては、データの活用度に個々人の間で大きな隔たりがあったことが挙げられます。つまりは、せっかく集計したデータも、どのような形で試合結果やパフォーマンスと結びつければいいかわからない人が多くいたということです。
テクニカルユニット内にはデータ分析班が存在し、これまでそこに所属する人がア式のデータ分析を一手に担ってきました。プログラミングなどデータを出力する段階はそれでいいかもしれませんが、出力されたデータを適切に評価して扱える能力はテクニカル全員が身につけているのが望ましいでしょう。今後はテクニカルユニット全体としてリテラシーを高める必要があるといえます。
スカウティング、リアルタイム分析と比べると、改善できる余地がまだまだ大きいと感じる自チーム分析ですが、テクニカル全員で改善していけるよう頑張ります。自チーム分析のうちデータを用いる部分の詳細については、次回以降のどこかで紹介しようと思います。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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ありがとうございました!
FL-UXを非常に上手く練習に取り入れながら自チームの強化に取り組んでいらっしゃる東大ア式蹴球部の皆さん。一方で、収集・分析したデータをいかにチーム内で活用していくかという点についてはまだまだ改善の余地があると感じられているようです。
私たちRUN.EDGEが開発しているFL-UXは、プレー分析をするためのツールの一つに過ぎません。そのツールを使ってデータを集めたり、またそれを分析するのはチームの皆さんです。一方で、今回の記事でご紹介いただいたようなスケッチやプレイリストなど、ツールとしての操作性、快適さを追求することや「映像を活用したリアルタイム分析」といった新しい体験を提供することで、チームのパフォーマンスの最大化に私たちもテクノロジーという側面で貢献ができるのではないかと考えております。
ぜひ、東大ア式蹴球部の皆さんには、FL-UXというツールを活用して、さらに高いレベルを目指してご活躍されることを期待しています。
東大ア式蹴球部さんのWEBサイトはこちら
東大ア式の皆さんが実践されているようなプレー分析を始めてみたい、もしくは、プレー映像の編集が簡単に行えるツールを探している、といった方はぜひ、下記のリンクからFL-UXをチェックしてみてくださいね。
それではまた!