
【サッカーアナリスト杉崎健さん連載 vol.5】集めるデータはどうやって決める?〜データの取得と考察の方法〜
こんにちは!
本日はプロサッカーアナリスト杉崎健さんによる連載第5弾をお送りします。(前回までの連載はこちらからお読みいただけます。)
今回のテーマは、プレー分析を始めた人の多くが抱えている「どういうデータに着目すれば良いの?」、「集めたデータをどう使えば良いの?」という悩みに対し、プロアナリストの杉崎さんが実践していたこと、また今も実践していることについて教えていただきました。Jクラブでご活躍されていた当時のお話については「公開できる範囲で・・・」とお願いしましたが、かなり詳しいところまで教えていただきました。(ありがとうございます!)
それではぜひ、楽しみにご覧ください!
(ここから杉崎さんの文章です。)
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当ページへのアクセスありがとうございます。定期的に投稿させていただいているサッカーアナリストの杉崎です。
アナリストに関わる事項やFL-UXをはじめとする映像分析の事項等について、様々な角度からお届けしております。よろしくお願いします。
前回はアナリストにおけるスキルの最新版のような形でお送りさせていただきましたが、今回はその中の「データ取得」に焦点を当ててみようと思います。
データを取ることが重要でなく、解釈を含めて扱うことが重要であることは前回お伝えしました。では、実際に自分はどんなデータを取得し、どうフィードバックとして用いていたのか。「答え」を言うわけにはいきませんが(秘密情報保持の観点)、手法に関してはお伝えできると思っていますので、できる範囲で書き記していこうと思います。
私はJリーグの3クラブを渡り歩きましたが、それぞれでデータを扱ってきました。自分で取得したものもあれば、外部会社の協力をもって対応していたこともあります。自分で取得するには当然ながら、アナログかデジタルで記録していかないといけません。どちらにしても共通するのは、自分たちのゲームモデルに沿ったものを取得すること。ポゼッション率やパスマップが重要なら取得する必要があるし、優先度として高くないなら取得する必要がありません。
また、外部会社が出してくれるデータがあるなら、重複して取得する必要がないのも当然です。手の届いていない部分を取得するのです。
例えば、ペナルティエリアへの進入数とかは外部会社で取っているところが多いでしょう。しかし、ペナルティエリア内の人数をデータ化してくれている外部会社は見たことがありません。これは今後、トラッキングデータによって出せるところは増えると思いますが、当時はなかったので自分で取得していました。もし外部会社がそれをもできるようになったら、今度はペナルティエリア内に進入できたはずの回数と割合+その時の中の人数とポジション別人数のようにカスタマイズすると思います。
要は、外部会社が取れるデータなら任せて、それ以外の部分で、かつ、自分たちのゲームモデルに沿った中で知りたいデータを取得しインテグレートする。これが重要です。
あとは、エリアで分けるのではなく、相手のシステムに応じた「Zone」ごとに進入した回数なども取得していましたし、あるいは自分たち基準の「球際の回数と勝数」を計測していたこともありました。
データ会社(=デジタル)と自分取得(=アナログ)の違いであり、自分取得の利点は、定義を自分基準にできることです。その分、デメリットは(試合)数を多くできないことなのですが、自分たちの試合だけで良い環境なのであれば、自分で作ってしまった方が効率的かつ信頼性が強くなります。
攻守において、皆さんのチームでもコンセプトやゲームモデルはあると思います。以下に、例えばの例でアナログ取得すると面白いものが見えるものを羅列してみます。
自陣攻撃
・ビルドアップの回数とそのうち敵陣に進入できた割合
・ビルドアップにボランチが絡んだ回数
・自陣内でサイドチェンジをした回数
・相手のZone2を超えられなかった回数
・浮き球を使った回数
・相手がプレッシングを仕掛けてきた回数と剥がした回数
・ロングボールで逃げてしまった回数
※すべて回数のみならず割合や成功率なども出せるはず
敵陣攻撃
・相手のZone4を超えられた回数
・裏へのランニング回数と渡った回数
・バイタルを使えた回数
・ワンツーの回数
・3人目の動きの回数
・有効なダイアゴナルランの回数
・ワンタッチできた回数
・クロスに対するペナルティエリア内の人数
・相手と入れ替わった回数
・リスクマネジメントできていなかった回数
守備はこれをひっくり返す形でも良いですし、また違った観点で取得しても良いでしょう。あくまで例です。自分たちのサッカーにおいて当てはまらないものがあるなら、取得しても意味がありません。また、これだけなはずもありません。もっともっとありますし、適宜アップデートも必要ですね。
これらを取得していくと、その時の状況を考えるようになりますし、その数字の大小や優劣が何を意味するか分かってきます。
選手らに対しては、この観点からフィードバックしていました。単にデータはこうだったよと言っても意味がないので、ビルドアップの回数とそのうち敵陣に進入できた割合が20回中3割だったとすれば、残りの7割において何が課題だったのか話し合うことができます。ボランチが絡んでいないからなのか、サイドチェンジが少ないからなのか、浮き球を頻発しているからなのか、ロングボールで逃げてしまっているからなのか。他のデータとも連携して答える(議論する)ことができます。
当たり前ですが、こうしたデータ取得の意義は、自分たちの成長を促すためにあります。つまり、自分たちが描いているサッカー像がなければ、高度なデータを取得しても使い道がないのは自明ですね。逆にそれがしっかり整っているならば、試合中にそれがどれだけ起こっていて、どれだけ成功して失敗したのか。その原因は「感覚」として伝えるのか、実データを絡めて議論するのか。どちらが建設的かは明らかで、そのための素材を集めるのが「データ取得」なのです。
映像を集めて、そうしたシーンの振り返りを行うのももちろん有効ですし、プロ・アマ関係なくどのチームもそれは行っているでしょう。「次の対戦相手」も行っているのです。その質を問われた時、データも絡めて実証しているところと、そうでないところで差が出てきます。また、データの質も差が出るところです。
世間的にとか、ヨーロッパで主流だからという理由でデータ取得していても、フィードバックの仕方が分からないからただ取得しているとなってしまうのは時間の浪費しか残らないです。自分たちにとって何が必要なデータなのか、どんなサッカーをしたいのかを議論する必要があります。
なので、自分もヴィッセル神戸、ベガルタ仙台、横浜F・マリノスと渡り歩きましたが、それぞれで違うデータを取得しては解析し、フィードバックの仕方を変えていました。正解はないのです。
それが分かった上でも利用法が分からない場合は、少しマクロ的に見ることをおすすめします。1試合単位で見ていくと分からなくても、複数試合を横並びにし、成長度合いを見ることで分かるデータもあります。最初はワンツーの回数が10回だったものが、2試合目は12回、3試合目は8回、4試合目は15回のように。それだけで語れるはずはないのですが、「何となく」試合を見ているよりかは、指摘できるポイントはできますね。なぜ少なくなったのか、なぜ多くなったのか、選手の意識変化はあったか、など。
相手との比較も1つの手ですが、上述したように、自分たちと相手はサッカーが違います。横並びすること自体がナンセンスの場合もあるので注意しなければいけません。マクロ的に見る時とミクロ的に見る時とで注意すべき点は異なるのですが、この辺は「慣れ」も必要ですし、より考察していくアナリティクスマインドも必要になってきますね。
データの活用法はチームや選手によって変わるので、一概に言えない部分が多く、だからこそ「疑問」も多いでしょう。皆さんへの共通言語としてお伝えするのは難しいですが、「ヒント」となったのであれば幸いです。
今回はデータ取得とそこからの考察の仕方についてお話をさせていただきました。最後までお付き合いいただきありがとうございます。次回もまたよろしくお願いします。
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杉崎さん、ありがとうございました!
いかかでしたでしょうか。
「絶対にこのデータを揃えないといけない」ということはなく、そもそもデータを集めるだけではなく、自分たちのチームがどういうサッカーをしたいかという点をしっかりと議論した上で、コンセプトに合わせてデータを収集していくことが大切だということですね。大変勉強になりました。
杉崎さんのnoteやTwitterでは、プレー分析に関するより詳しい情報を見ることができます。
また、杉崎さんにもお使いいただいている弊社のプレー映像分析ツールFL-UX(フラックス)についての詳細はこちらからご覧いただけます。チームのプレーコンセプトに合わせたタグ付け、映像の編集、チームへの共有を全て完結できるツールとなっております。ぜひチェックしてみてください。
それではまた!