【陣形と配球策】スパレッティ・ナポリの4-3-3/4-2-3-1戦術分析〜後編〜
こんばんは!
今回も、前編に引き続き、とんとんさんによるナポリの戦術分析をお送りします。
前編をまだ読んでいないよという方は、ぜひこちらからチェックしてみてください。
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■前進の戦術(左サイド)

左サイドは、右サイドでの攻撃とは若干違った攻撃が行われる。それは、チャンネルに入る選手が定まっていない点に加えて攻撃の核となるインシーニェの存在、そして彼を補佐するマリオ・ルイという関係性が作られているからだ。
左サイドでの攻撃はあくまでインシーニェを中心に展開される。アジリティの高い彼はハーフスペースでもプレーすることが可能だが、彼は大外からの展開で攻撃を促進させる役割を果たす。
時にマリオ・ルイが大外を取ることがあるが、基本的にインシーニェが大外に位置する。マリオ・ルイは補佐的な役割となるため偽SBのようにCHの脇に入る、さらにポジションをあげてDFラインと中盤の間に入る、本来のSBの位置に戻る等状況に応じてポジションを移す。小回りが利き足元の技術が高く、どこで受けても計算できる彼に与えられた役目である。
インシーニェはやや下がった大外の位置でボールを受けるため、敵SBを釣り出すことができる。その背後のスペースをマリオ・ルイやオシムヘンが狙っていく。これは配置的な優位に基づいた攻撃となる。インシーニェ自身は、カットインと右脚による正確なクロス、中央への横パスで決定的な仕事をこなす。
彼がカットインをすると、敵陣を突破することも可能だが何よりそのまま右脚で巻いたクロスをあげることができる。カットインにより敵の視線を自身にひきつけることで、DFラインの背後にオシムヘンやポリターノが抜け出しやすくなる。これに対してDFラインが下がる動きを見せれば、視野の広いインシーニェは横パスでDFと中盤のライン間へボールを送り届けることができる。SB裏に潜り込んだ選手からのバックパスをインシーニェが受ける形をとることができれば、バックパスに合わせてラインを上げるDFラインの背後をより突きやすく、ナポリの攻撃の核はそれを見逃すことがない。
■戦術兵器・オシムヘン
🔵 Victor Osimhen = 9 goals in 12 games this season for @sscnapoli 🔥#UEL pic.twitter.com/xjkxWGrvFL
— UEFA Europa League (@EuropaLeague) November 1, 2021
ここまでで、オシムヘンがチャンネルやSB裏に入るプレーを行うことは述べてきた。22歳のオシムヘンは186cmと長身だがスピードがあり、圧倒的なフィジカルを携えているためボールを収める能力はセリエAでもトップクラスである。スピードとフィジカルを活かして無理やりにでも敵とボールの間に身体を入れ込んでボールをキープすることができる。パス回しにおいては数的優位を作るオーバーロード要員、そしてボールの一時的な収めどころとしてボールに絡むことが可能となる。
当然、ロングボールにおいても力を発揮する。後述するが、ナポリはマンツーマン気味に守る相手に苦戦する傾向がある。実際ヴェローナ、ローマ、インテル戦は2分1敗となっている。
相手がマンツーマンでプレスをかけてくる場合、全体が低い位置をとることであえて間延びし、最前線のオシムヘンにロングボールを送り込むというオプションを備えている。スピードとフィジカルを兼ね備えたオシムヘンはSBにフィジカルで、CBにスピードで容易く勝つことができるため単騎でボールを収めてシュートまで持ち込み攻撃を完結することができる稀有なストライカーだ。かといって独りよがりになることもない。オシムヘンがサイドに流れればCHのザンボがゴール前に顔を出すように、味方がサポートに来ればその選手を使うこともできる。ゴール数はさほど伸びていないが、彼の存在が攻撃の選択肢を大幅に増やしており、数字に表れない貢献が光っている。
■攻撃における弱み
ナポリの攻撃における弱みはマンツーマン気味に守る敵に対するビルドアップだ。セリエAには、敵の陣形と噛み合うように立ち位置を変えて守ることのできるチームが多い。そんな中でマンマーク気味に守られたヴェローナ、ローマ、インテルとの対戦は上述の通り2分け1敗となっている。モウリーニョ率いるローマはキーマンとなるファビアン・ルイスに対し、ペッレグリーニをマンツーマンでつけさせた。こうなった際にオシムヘンへのロングボールが効果を発揮するが、普段のビルドアップほど安定した攻撃は望めなくなる。
ボールを回しながらのポジションチェンジがさほど多くないナポリだが、上述のトップ下ジエリンスキを交えたパス回しおよびCHとの入れ替わりの頻度を増やせば相手を押し込んでビルドアップを安定させられる可能性が増しそうだ。
■前線の守備戦術
ナポリの守備は4-1-4-1か4-4-1-1にてセットされる。敵の中盤が2CHかアンカー制(中盤逆三角形)かにより、それに合わせて変更する形が多い。いずれの場合も1トップのオシムヘンによる攻撃方向の制限からサイドを限定して追い込むことがコンセプトとなる。4-4-1-1の場合、トップ下のジエリンスキが敵のアンカーのマークに付くことでより片側のサイドへの誘導を強めることが可能となる。

4-1-4-1の場合、両IHが前進して敵の両CHを捕まえる形をとるが、この守備は現状上手くいっているとは言い難い。IHが出ることにより発生するアンカー脇のスペースを突かれてしまうからだ。特にザンボの背後はその傾向が顕著である。
ザンボは守備時に首を振って周りの選手のスライドの状況を確認することが少ない。同時に背後のスペースも気にせずに前進をかけるためアンカーの脇が空いてしまう傾向が強いのだ。また、右SHのポリターノは敵のサイドの選手に意識がいきがちであり、ザンボが前進した際のカバーの意識が希薄である。インテル時代にスパレッティはポリターノにこのタスクを課し、チームとしても上手く機能していた。なぜならインテルのプレスのスイッチはポリターノであり、IHが若干低めに位置していたためバランスがとられていたからである。ナポリはIHの位置が高くSHがカバーする必要が出ており、逆となっている。当然ザンボとポリターノの連携自体洗練されていないのも原因となっている。

このポリターノの守備は、左サイドのインシーニェとの大きな違いとなっている。インシーニェはIHと連動して守備を行う。IHが上がれば自身は絞ってIHの背後をケアするようにポジションを下げる。敵SBにボールが渡るタイミングでプレスをかけるので周囲の選手も連動しやすく、ブロックに穴が空くことがない。
■欧州屈指のDFライン
連携に粗の見られる前線の守備とは打って変わり、クリバリを中心としたDFラインの統制された美しい連携は欧州でトップと言っても過言ではない。ナポリの試合を見るのであれば最も注目すべき部分の一つだ。まず約束事として、敵のボールホルダーがフリーの状態でDFライン背後にロブパスを送るモーションに入った場合、必ず全員がラインを下げて対応する。無理にオフサイドは狙わず、予め全員が後方にスタートを切ることでラインを崩すことなく余裕を持った対応が可能となる。
中盤のラインが抜かれてしまった場合も無理に奪いに行くことはせず、DFの間を抜かれないよう絞りつつ後退し、時間を稼いだのちペナルティエリアに入る前に後退を解いて迎撃、シュートブロックを行う。
無理に前進しない守備であるため、CB陣の1試合平均インターセプト数は他の上位チームに比べて少なくなっている。
また最も基本的な部分であるが、並列で並ぶ場合は互いの背中のケアを行い、誰か一人が対応に出た場合はボールサイドに向かって必ず絞る。一人が急いで動くのではなく、足並みをそろえることで守備ブロックに穴を空けない。カウンター対応の際は後退しながら敵を中央に誘導しつつDF同士の距離感を徐々に詰めることで隙間を通すパスの選択肢を排除、ペナルティエリア手前で後退を終えて迎撃する。
こういった約束事の明確化、基本的な動きの徹底が、美しいDFラインの連携の全てであるといえる。
■負傷者の増加
ナポリにとって負傷者の増加が深刻な悩みの種となっている。クリバリ、ザンボ、ファビアン・ルイス、インシーニェ、オシムヘンといった主力が負傷離脱をしている状況だ。これだけ主力が離脱してしまえば、どんなチームでも機能性が落ちる。最高の滑り出しを見せたナポリにとっては大きな痛手であり、早々に正念場を迎えている。
■おわりに
🎩#NapoliLazio @en_sscnapoli @dries_mertens14 pic.twitter.com/3b60sMdH2E
— Lega Serie A (@SerieA_EN) December 2, 2021
ビルドアップ時の配球策、左右で違った攻撃の形、統制されたDFライン等スパレッティ就任間もないものの高いレベルで機能しているナポリ。主力の負傷離脱期間を耐え忍び、取りこぼしを最低限に収めることができれば終盤戦にもスクテッド獲得の望みを繋ぐことができるはずだ。主力が戻れば改めて機能させられるはずであるが、その間はロサーノ、エルマス、ロボツカ、ジェズス、そしてメルテンスといったスタメンをつかみ切れていない選手達にとってアピールできる機会ともとることができる。彼等の奮起で新たな機能性が生まれることにも期待したい。
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とんとんさん、ありがとうございました!
次回以降もしばらくセリエA特集を続けていく予定です。お楽しみに!
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それではまた!