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「鳥の眼」で観る欧州サッカー〜レアル・マドリードvsマンチェスター・シティに見るプレッシング戦術の差異〜

こんばんは!
FL-UXマーケティングチームです。

また梅雨に逆戻りしてしまったかのようなお天気が続いていますが、皆さん、いかがお過ごしでしょうか。

さて、本日は、ご好評いただいておりますとんとんさんとのコラボ企画、『「鳥の眼」で観る欧州サッカー』をお送りいたします。

本日は、欧州CL準決勝、レアル・マドリードvsマンチェスター・シティにおける、両チームの戦術に着目していただきました。

それでは、とんとんさん、早速お願いいたします!

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レアル・マドリードのCL準決勝はマンチェスター・シティとの対戦となった。
プレミアリーグを制したシティは戦術的に完成度の高いチームであり、世界最高のチームの一つだ。

1戦目はアンカーのカゼミロが不在のため、代わりにクロースがアンカー、左IHにモドリッチ、右IHにバルベルデ、右WGにロドリゴが起用された。
この試合はホームのシティが終始ゲームを支配する形となった。その要因となったのがシティのプレッシングだ。ボール保持を得意とするシティにとって、相手からボールを取り上げる守備の部分も当然重要となってくる。この日のシティは左IHのデブルイネを1列上げた4-4-2でのプレッシングでレアル・マドリードを苦しめることに成功した。

マンチェスター・シティのプレッシング

シティの守備の巧みな点はアンカーのクロースへの対応だ。基本的にクロースに対しては2トップと2CH、特にジェズスとシウバが中心となってケアを行う。この2人の守備での影響が際立っていた。

まず2トップがアンカーを切りながらCBへのプレッシングを行う。DFラインでのパス交換の最中、下がりながら広がってビルドアップを試みるマドリーに対し、シティはバックパスに合わせて全体を押し上げていく。その中でアンカーのケアの役目を2トップから徐々にCHにシフトしていく。そのため2トップと中盤は常にコンパクトな状態を維持する必要がある。当然2トップが単騎でプレッシングに出ることは皆無であった。

SHは敵IHを切りながら敵SBへのパスを誘導するようにポジションをとり、SBに出たタイミングで押し上げる。SBがCBに返すと2トップが押し上げる。この繰り返しでマドリーをドンドンと押し込んでいった。
この最中、ボールサイドでないFWはCBへ寄せられる位置をとることでサイドチェンジを制限した。この制限がかかったところでボールと反対サイドのCHも極端にボールサイドに寄せて攻撃の選択肢を圧縮、潰して見せた。
攻撃方向の制限によりDFラインもボールサイドへのスライドが可能となったため、マドリーがWGにボールを当てるようであればSBが迷わずに前進して奪取に出ることができた。

レアル・マドリードの守備

対するレアル・マドリードの守備を見ていく。マンチェスター・シティの守備はほとんどがプレッシングで完結していたが、レアル・マドリードの場合プレッシングだけでなくブロックを組む時間が長くなった。無理なプレッシングを避け、ある程度プレスをかけて難しければリトリートするスタイルであるからである。ここはシティとの大きな違いである。

まずは前線からのプレッシングだ。レアル・マドリードのプレッシングでマストとなるのは「セカンド・チェイス」だ。ベンゼマを例にすると、彼がアンカーを見ている位置からCBにプレスをかけるとアンカーへのカバーシャドウがかかった状態となり、パスコースを消すことができる。CBはもう一方のCBにパスを出すが、そのままパスを受けたCBにベンゼマがプレスをかければCB間のパスコースを消すことができる。これは体力の消耗が激しいものの、確実にパスコースを切りながら攻撃の誘導を行うことのできる守備技術だ。マドリーのプレスには確実にこのムーブが含まれる。上の例のベンゼマに加え、SB→CBへとかけるヴィニシウス、自陣の場合はIH→アンカーとかけるモドリッチ等IH陣に多い。

プレッシングをかける場合は前線のセカンド・チェイスに連動する形で、IHのモドリッチとバルベルデがロドリとシウバを見ることとなった。WGはやや絞った位置をとり、SBにボールが出るタイミングでプレスをかけていく。
こうした中でプレスがはまらなかった、もしくは攻撃→守備のトランジションで陣形が乱れていた場合、無理にプレスをかけるもしくはプレスを続行することはせずにリトリートする。

リトリートの際、縦パスのコースを消すのは当然であるが、アンカーに無理にプレスにいかずに持たせるのもマドリーの大きな特徴だ。IHのモドリッチやバルベルデがDFライン手前のパスコースを遮断することが重要となる。ここがプロテクトできれば、アンカーからの展開も難しくなり、前線メンバーの帰陣やプレスバックも期待できる。激しくプレッシングをかけるリヴァプールのようなチームとは対照的だ。陣形が整い、寄せる場合もIHはパスコースを切りながらのものとなる。

デブルイネの見方

どのチームにおいてもシティと戦う上でポイントとなるのがデブルイネの見方だ。マドリーの場合、ボールサイドであればIHのバルベルデがマンツーマン気味に背中からマークにつき、位置が悪ければクロースが補佐、反対サイドであればロドリゴが絞ってケアを行った。

開始1分での失点はこの守備が徹底されていない隙を突かれる形となった。マフレズにカットインを許した際にシウバのチャンネルへのランニングに対してアラバとモドリッチが外に釣り出され(これも問題点のひとつだ)、中への展開を許しやすい環境が整う。この時バルベルデはゴールとデブルイネの間に入ってマークについていたが、ボールホルダーのマフレズとデブルイネを同一視野に入れるのが難しくなった。デブルイネはバルベルデの首振りや視野の状況からタイミング良く走り出し、バルベルデの死角に入ることに成功する。フォーデンがサイドに張ることでカルバハルのカバーリングを弱め、デブルイネのダイビングヘッドによるゴールを演出した。

徹底したシティ、狙われたチャンネル&クロス

この1点目の例ではチャンネルへの対応がひとつの問題となっているが、それは試合を通じて同様であった。2点目のシーンはミリトンがカバーエリアの広さを活かしてサイドへフォーデンのケアに向かったが、フォーデンのキープ力を前に奪取とまでは至らなかった。

さらにチャンネルのカバーが曖昧となった上、ミリトンが不在となりゴール前に2人しかいない状況が生まれた。クロースがカゼミロほどDFラインのカバーのためにポジションを落とさなかったのもひとつの要因である。デブルイネから鋭いクロスがゴール直前に位置するガブリエルへと送り込まれた。
チャンネルカバーのエラーからゴール前の人数を減らしクロスを送り込むという攻撃は、シティが徹底していた部分であった。被カウンターの準備も明らかに練られており、後方ではマークの確認を行う気を使ったプレーが見られた。

また、この試合では左SBのジンチェンコがシティの連携の中心として機能した。(※詳細に関しては、一つ前の記事「白い巨人を幻惑させたジンチェンコに見る、SBの攻撃への関わり方」を参照)

最終ラインが手薄となる中で、輝きを放った選手がカルバハルだ。最後の最後で迂闊に飛び出さず、シュートコースを制限しつつクルトワとの連携で決定機を防ぐギリギリの好プレーがなければ、レアル・マドリードはさらに失点を重ねていただろう。

レアル・マドリードの攻撃

こういったシティの守備に苦しみながらも3得点をあげることができるというのが今季のマドリーだ。この試合、ビルドアップは終始機能しなかった。アンカーのクロースも打開を図るものの、降りながら受けることでシウバやジェズスといったマーカーを引き連れてしまい、そのままプレスにはまる形となった。それだけこの試合のジェズスとシウバを中心としたプレッシングは機能していたといえる。そんな中で4失点目以外下手な失い方をしなかったのは好材料といえるだろう。

こうした展開で機能したのがプレッシングからの速攻とロングボールだ。セカンド・チェイスを組み込んだプレッシングはシティにロングボールを蹴らせることに成功した。メンディのクロスとベンゼマのシュート精度という高次元の個人技術だけに見える1点目のシーンもロングボールを蹴らせたところから始まっている。このゴールはロドリゴがデコイとなりベンゼマがSBのジンチェンコと競り合う形をとるという連携が含まれていた点も見逃せない。

そして外せないのがロングボール戦術である。シティのプレッシングは確実に機能していたものの、ロングボールを蹴らせたときの回収までは不十分であった。SBも参加するプレッシングは、前方向には力が発揮されるが、ロングボールを蹴られた際の後方への戻りやセカンド回収の意識が足りていなかった。DFラインが3枚になるうえに戻りも弱いため、高さでなくサイドのスペースでスピードにより収められてしまうシーンが散見された。ここはマドリーが巧みに進めた部分となった。

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とんとんさん、ありがとうございました!

次の記事では、両チーム対決の2ndレグにおける戦術的変化について解説いただきます。ぜひ、続けてご覧ください。

また、とんとんさんがご自身で運営されているブログ、『サッカー戦術分析 鳥の眼』では、こちらのnoteでは公開されていない記事もご覧いただけますので、ぜひチェックしてみてくださいね。

それではまた!

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